NPO法人全国初等教育研究会(JEES)は、第15回JEES教育セミナー『新学習指導要領 全面実施まであとわずか! 若手教師の悩みを解決する授業・学級・学校づくりセミナー』を、2019年10月26日に開催いたしました。
姫路で開催した第14回JEES教育セミナーと同様に、JEESの理念でもある『若手教師の悩みを解決する』ことを軸に、JEESの新保元康フェローにコーディネーターをお願いし、3名の現場の先生方から模擬授業や実践報告をしていただきました。姫路でも好評だった、若手の先生方が参加しやすいようなグループ単位の話し合いや相談の時間も用意し、明日からの授業に役立つセミナーとなりました。
■最初は悩みの共有
グループごとに、今の悩みや困っていることなどを共有しました。そこで、特別な授業ではなく、日々の日常的な授業についての悩みが多いことがわかりました。
■模擬授業 久川慶貴先生(愛知県春日井市立藤山台小学校 教諭)
小学校5年、算数、「小数÷小数」の模擬授業を子どもになったつもりで受けた後、模擬授業の中で使った授業技術についての解説をしていただきました。
模擬授業は、フラッシュ型教材を使って割り算の簡単な暗算にテンポよく答えるところから始まりました。その後、問題である文章を声に出して読み、ノートに数直線の図をかいて、式を考えていきます。最後は今まで学習した割り算との比較をしながら「小数÷小数」の割り算のやり方を確実にできるようにしていく授業でした。
10分ほどの模擬授業ではありましたが、様々な授業技術が使われていました。
最後に、本来であったら4年生までに数直線は言われなくても自分からかけるようにしているという補足の説明もありました。また、教員になりたての頃は、決まった子どもからしか発言がないなどの悩みもあったとのことですが、ペアで確認するという方法を取り入れたことで、発言しないままぼんやり過ごしてしまう子どもが出るという課題を解決できるようになったという具体的なお話もお聞きできました。全員を授業に参加させる授業技術として、例えば「聞こえた人?」というような全員が手を挙げられる質問を取り入れるなどの方法もあるとのことです。
式の書き方を対比できるような板書の書き方をした理由も、違いをわかりやすくするだけではないと教えていただきました。それは、細かい計算まで書いていく式の書き方から、その細かい計算を少しずつ省略し、短い計算式で問題を解くように指導するためでもあるそうです。そうやって徐々に子どもが一人で宿題をやれるように導いていく、という大切なポイントも教えていただきました。
最後の新保先生との対談では、実物投影機やプロジェクタなどのICT機器が教室に常設されていることが前提になっていることや、子どもに考えさせるだけではなく、しっかり教える時間も重要だということなどが確認されました。
実践発表 片山 淳一先生(岡山県岡山市立建部小学校 教頭)
教頭先生になる前の前任校での実践を中心に「授業を支える学習規律・学級経営」についてお話しいただきました。
最初に、隠れたカリキュラム(ヒドゥン・カリキュラム)の大切さについて、具体的な写真を観ながら説明していただきました。例えば、きれいに整理されたロッカーや靴箱にするには、学習規律や学級経営が大切になっていきます。これには、先生が口うるさく子どもに指示するのではなく、ボランティア活動として子どもたちが自分で整理整頓していったり、掲示物を使って子どもに気づかせたりという方法を取り入れていたそうです。学級経営につながる思想を教室環境に埋め込んでいくことがポイントになるというお話や、うまくできたときには褒めるということをくり返しながら子どもを育てていくというお話もいただきました。
学習習慣をつける方法も同様で、机の上には必要な筆記用具だけを出しておくというだけではなく、すぐに学べるような仕掛けも用意されていたそうです。例えば、わからない言葉が出てきたらすぐに調べられるように辞典を出しておくことや、すぐに取り出しやすいように机の横にくりかえしドリルをぶら下げておくなどの取り組みです。いつでも利用できるようにすることでくり返し活用するようになり、学習習慣が定着していくというお話には参加者の皆さんも納得できた様子でした。
自主学習の取り組みや、ドリルやノートへの書き込み実践についても詳しく説明していただくとともに、子どもが書き込みをしたノートを会場に用意していただきました。休憩時間は先生方が熱心に手に取り見られていました。
実践発表 水谷 年孝 先生(愛知県春日井市立出川小学校 校長)
校長のお立場から「深く学ぶ子どもを育む日常授業とICT活用」というタイトルで春日井市立出川小学校の実践をお話しいただきました。
日常授業改善の取り組みを始めて9年目になる出川小学校は、ICT活用や学習規律を整える指導が注目されてきました。しかし、目的はあくまで日常授業を改善していくこと。その手段としてICT活用や学習規律を整える実践をしてきたことが、結果として若手の育成につながったというご説明をいただきました。
新しい先生がすぐに出川小スタイルの授業ができる「誰が入っても授業ができる」という体制は、それらの取り組みから生まれたとのことです。具体的な取り組みは実際の授業動画をいくつか見ながらご説明いただきました。
そして今は、学びの質の向上をめざして、子どもたちが頭をフル回転させながら学べるように、各学年で話す・聞く・書く・読む・調べるなどの学びのスキルを鍛えていくことに取り組んでいるとのことです。最近はタブレットパソコンも取り入れながら、情報を集めてそれを整理して文章をつくっていくという学習もされているそうです。
実践を聞いた参加者からは、「学校全体を動かそうとしてもなかなかうまくいかず悩んでいましたが、出川小学校の実践を聞き、全体で動けるような環境を整えていくことが大切だと気がつきました」という感想などが共有されました。
教材活用研修体験 磯崎 ひろみ(JEES事務局/教材活用支援員/教育情報化コーディネータ2級)
NPO法人JEESの研修事業のご紹介と、その研修の一部分を体験していただきました。現在、JEESにご依頼の多い「実物投影機活用研修」と「学校教材活用研修」のそれぞれの一部分だけの体験でしたが、久川先生の模擬授業で使われた授業技術や、片山先生の実践でご紹介いただいた漢字デジドリルの活用なども体験していただきました。
まとめのディスカッション
参加者に書いていただいたコメントペーパーからの質問等をもとに、それぞれの先生方にお話しいただきました。
久川先生からは、子どもが発言できる授業のためのコツとして、最初から自由に話させるのではなく、手を挙げて発言し、発表者の話を静かに聞く時間を指導しつつ、子どもが育ってきた段階で自由に発言させるなどの段階をつけていくことが大切だというお話をいただきました。
これを受けて片山先生は、勉強の内容を教えることも必要ですが、勉強のやり方を指導していく大切さもお話しいただきました。子どもに学習スキルを身につけさせることで授業もスムーズに進むようになり、自由な意見交換などを取り入れた授業もできるようになっていくというお話は、久川先生や水谷先生のお話につながるものがありました。
水谷先生からは、学習規律は学習スキルととらえて、一生役に立つスキルにつながるというお話をいただきました。保護者からも学校で決まっていることで安心できるという声が多いとのことでした。子どもが安心して授業を受けられる学校としての環境づくりの大切さを教えていただきました。