NPO法人全国初等教育研究会(JEES)は、第9回JEES教育セミナー『「小学校外国語活動・外国語科実践講座」新学習指導要領全面実施にむけて 子どもも教師も楽しく!~心が動く授業づくり~』を、2017年11月11日に開催いたしました。
今回は、平成25年度から文部科学省研究開発学校(外国語)の指定を受け研究を重ねてきた、徳島県鳴門市林崎小学校で実践なさったお二人の先生にご登壇いただき、来年度から移行措置がスタートする小学校の外国語教育について具体的なお話をいただきました。
最初に、昨年度まで林崎小学校で外国語教育コーディネーターをされていた、鳴門教育大学 小学校英語教育センター特任講師・佐藤美智子先生が「今は様々な情報が飛び交っている。新学習指導要領で何を求められているのかを正しく理解することがまず大事」とし、中学年、高学年、さらに中学校別の目標をそれぞれ比較しながら説明なされました。
中学年では、楽しみながら英語に“慣れ親しむ”ことが大事であること、さらに重要ポイントとして、今まで 「発表」に重きが置かれていた“話すこと”に“やりとり”が加えられたことを挙げ、「友達や先生のサポートを得ながら、英語を使ってコミュニケーションを図ることの楽しさが味わえるようにしてあげたい」と述べられました。
高学年での“読み・書き”については、「中学校になると、正確に書くこと、自分の考えを書くことなどの力が求められる。だが、それに向けてたくさん教え書かせる、というのではなく、書く必然性のある場面を設定し、“~のために、心をのせて書く”という体験を小学校の間にたっぷりさせてあげたい」と話されました。
続いて、子どもたちの心が動く授業にするための手法として、林崎小学校で大事にしてきた5つのキーワード「バックワードデザイン」「心が動く」「必然性(場面設定、相手・目的意識)」「他教科等との関連」「関わり合い・学び合い」が実践事例とともに紹介されました。
気になる評価方法については、林崎小学校の子どもたちが前向きにパフォーマンス評価に取り組み自信をつけた例を挙げながらも、「ただし2020(平成32)年度からは数値による評定になる。ジャッジをするのではなく、子どもたちを伸ばしてあげられるような評価方法になれば、テストは決してマイナスにはならないと感じている」と述べられました。
ここで、子どもたちが違う言語に慣れるためにはどれだけ時間がかかるのかを体験するため、中国語でのイラストカードゲームを参加者全員で行いました。聞き慣れない中国語の発音や表記に戸惑いながらも、ゲームは楽しく進行していき、佐藤先生の「慣れるにはとにかく時間が必要。いきなり聞かせる、言わせる、書かせるのではなく、たくさん見て聞いて徐々に慣らしていきながら、子どもたちに負担のないようにしてあげたい」との発言に、参加者は皆共感されていました。
佐藤先生は、小学校における外国語教育を「完璧に書いたり発音したりを求めるのではなく、言語を超えて人と関わる楽しさ、コミュニケーションの楽しさなどを体験し、人と話したい、自分のことを伝えたいという情意面を育てるもの」としたうえで、「学年ごとに、何をできるようにするのか、何ができなければならないのかをしっかり確認し、指導する側がそれを忘れないように授業をしていくことが必要」と締めくくりました。
後半は、林崎小学校 教諭・坂田美佳先生による、“Hi,friends!2”Lesson9「What do you want to be?」と関連させた、6年生の模擬授業が行われました。ここでも“段階的に慣れさせていく”様子が再現されていきます。
様々な職業を提示し十分に聞き慣れる第一段階を経て、第二段階では「私は~になりたい(I want to be a ~.)」という言い方に慣れるため、単語が書かれたイラストカードを使用。最初の2時間は絵が大きい面を、3時間目の後半からは文字が大きい面を使うようにし、徐々に慣れさせていきます。
チャンツやカードゲーム等で言ったり聞いたりを繰り返し、音に十分慣れさせたうえで、第三段階からは文字に目を向けさせる活動へ移ります。そこでは、手作りのフラッシュ教材やワークシートを用い、ひとつひとつのアルファベットが集まって言葉(単語)ができていることに気付かせます。
文字を見てなんとなく単語だと認識できるようになってから、全員でビンゴゲームを行い、最後は自分がなりたい職業を書き写す学習へと流れていきました。
坂田先生は「最初は幅の広い4線に書く練習をした。ただ書かせるのではなく、文字は言葉と違ってずっと残る、だからこそ心をこめて丁寧に書こうと伝えてきた。本当に書きたいことがあれば、子どもたちは自ら調べようとし、すすんで書き始める」と述べられました。
また、ゲームについては「ゲームありきで授業をするのではなく、ゲームの先に必ず“言い慣れる”“聞き慣れる”“書けるようになる”という目標を持たせてほしい。本当の目的はその言葉を言わせることではなく、将来日本語以外の言語でもひるまずコミュニケーションができる人を育むこと」だと言われました。
最後に坂田先生は「不安も課題もいっぱいある中で忘れたくないのは、目の前の子どもたちの笑顔を大事にしたいという思い。小学校の先生だからこそできる外国語の授業、というものをつくっていけたら」と述べられました。
質疑応答では、全国各地から参加された先生方から、時間の確保をどうすれば良いか、教材の作り方やほしい教材について、中間評価の方法など、多くの質問が寄せられました。
閉会後のアンケートからは、これから始まる外国語教育に対する不安や課題が少しでも払拭される、大変有意義な場であったことが伺えました。